「フィサリスの三肢がない日常 2」
 
 ※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
  この作者様独自の構成の作品となります。

「あら~盛大にぶっ壊したわね~」
「早く予備頂戴よ」
「ごめんなさいね~今予備切らしていて作っている最中なの~」
「じゃあ日用義肢持ってきてよ、私の家にあるから。ここからちょうど西に歩いて15分のとこだから」
「ごめんなさいね~今蒸気義肢作ってて忙しいの~。それにたまには義肢無しなのもいいんじゃない~肩凝らないから~」
「わかったわよ。待ちますよ」

フィサリスは内心落ち着かなかった。
自分の蒸気義肢の予備がないので、左腕だけの状態で蒸気義肢が出来上がるまで待てというのだ。
通常義肢も切らしていてまさに、五体不満足ならぬ三体不満足である。
それも昨日、蒸気鎧のギャングと戦った状況そのまま、つまり、義足はほぼ全壊、腕は簡単に言えば方から下がない状態である。

フィサリス用の蒸気義肢を一から作って出来るのは早くて1日と半日、遅ければ一週間以上かかる。
彼女の義肢はそれだけ規格外なのである。蒸気義肢を付ける前の彼女も、並の蒸気義肢ではかなわぬほどの強さだが、蒸気義肢を得てからは弱点を加味しても部隊内でも1、2位を争うほどの実力者になった。
だが、蒸気義肢も肉体ではなく機械だからいずれは壊れるときがくる。
そのために、そのときに備え蒸気義肢を作らねばならないのである。
いつもは大抵スペアが10数個あるのだが、今回はその予備がなかった。
作るための資材はあるものの、整備班が流行性感冒にかかって皆休んでしまったのだ。
幸い、ほかの部隊、つまり普通の警察や蒸気義肢者は大丈夫なため、代わりに出動しているという。
彼らからにしてみれば、フィサリスに恩を返せる絶好の機会、といったところだろう。
たまにコンビを組んでいる…いや組まされているヴィーも今回は、前回すぐに駆け付けられなかったことを気にして、向こうと協力している所である。

今フィサリスは整備室でグラークと一緒にいる。グラークは椅子に座ってのんびり回っている最中である。
フィサリスはそんな四肢がある彼女の状態を20%は羨ましく思い、そしてそんな羊みたいな彼女を見て40%は癒され、そして残りの40%は早くなんとかして自分も捜査に加わってギャングを倒したい、という気持ちがあった。

今整備班でいるのはグラーク一人だけである。
彼女はスタイルも美人で技術も他とは格別な腕を持つのだが、そのどこか他人とはどこかズレた性格と
人並み外れた怪力がたまにキズ、といったところである。
彼女は鎧や武器防具、そして蒸気義肢関係のことについて目がないのである。
そのことに集中すると周りのことを気にしなくなり、たとえ寝食を省いてでも集中するのである。

「フィサリスちゃん~今の三肢がない方がかわいいわよ~髪型もロングのほうがおしとやかでいいわ~」
「そう、でもやっぱ三肢があった方が楽しいわ。左腕だけじゃ何もできないし」
(…ロングヘア―のほうがおしとやかというのは同じだけど)フィサリスは心の中でそう思った。
フィサリスが髪型をいつもツインテールにしているのは、格闘をするのにロングだと煩わしいからである。
言ってしまえば、彼女が「仕事」、蒸気義肢を付けたギャングやマフィア、不埒な輩たちと戦う時の「スイッチ」みたいなものである。例えるならサラリーマンのネクタイみたいなものである。
戦闘時、それが解けた、または解かされた時、つまりロングヘア―に戻ったときにフィサリスに第2の「スイッチ」が入る。こいつはなめてはかかってはいけない。本気を出さなければいけない。という「スイッチ」である。つまり、相手は死ぬほど痛い思いをする、ということを表す「スイッチ」である。

「じゃあ、フレーム作るから一日そのままで待ってて~」
「早く作ってよ」
話にも飽きたグラークが、回る椅子を止めて立ち上がった後、ハンマーを担いで蒸気義肢のフレームを作りに製鉄所に向かっていった。
その間、フィサリスは一人で部屋にいることになった。

待ち続けている間、左手だけでパンチの素振りをしているとフィサリスはあることに気が付いた。
「トイレとか行きたくなった時どーすんのー!気ィ聞かせてよーグラークゥー!」
と自分も原因の一部であることを自覚しながら一人飽きれていた。流石に左手だけで移動するわけにもいかないのである。ホラー映画になってしまう。
するとドアをゴン、ゴンと二回叩く音が聞こえた。その衝撃音からして義肢装着者である。
「フィーちゃん、元気ー?お姉さんが来たわよー!」
「はーい、どーも!入っていいよー!」とフィサリスが答える。
ドアが開いた。そして四肢が武装蒸気義肢の女性が現れた。
彼女の髪型はロング、そして武装蒸気義肢はフィサリスが使っているのよりか幾分か旧式であった。特徴としては、上腕三頭筋から総指伸筋までが普通の腕の6倍ぐらいの直径があり、足のほうは、大腿四頭筋の部分とそこの筋肉が普通の足の6倍ぐらいの直径をしているものであった。
それはかつてフィサリスも付けたこともある種類のものである。
「先輩!?みんなと一緒に警備に行ったのでは?」
「みんないるから大丈夫だと思って様子見てきたの。彼らも大丈夫だろうからお姉さんが面倒見てあげるわ~。出世払いで結構よ~!」
相変わらず、面倒見はいいものの金にはがめつい先輩だとフィサリスは苦笑しながら思った。
「じゃあ、トレーニング室の鉄棒のところまで連れてってくれる?懸垂したいの。ここんとこ左腕鍛えるのさぼってたし」
「じゃあまず、写真撮っていい?ロングのフィサリスちゃんって珍しいし可愛いし」マティーが目を輝かせて答える。
「いいわ、可愛く撮ってね~!」とフィサリスも多少おどけて答える。写真を撮られるのは慣れっこである。
そしてマティーが蒸気カメラを構えると一瞬光った後、パシャッと音が聞こえ、カメラから蒸気とともに写真が出てきた。





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