「フィサリスの三肢がない日常 3」


※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
  この作者様独自の構成の作品となります。


写真を撮り終えた後、フィサリスはマティーにこう言った。
「そういえば私が出られなかった今回の任務って何?」
「ギャングが爆弾を所持しているからそれの確認、そしてその武装解除よ。それがどうかしたの?」
「いや~。爆弾というか、爆発には苦い思い出があって」

―――

それはフィサリスが蒸気義肢をつけて4か月程度、まだ蒸気義肢に慣れていないころのことであった。
蒸気義肢をつけた用心棒がいて、それと相対することになったのだ。
その用心棒が四肢に付けていた蒸気義肢は特別なものではないものの、フィサリスに比べて
蒸気義肢での戦闘の経験が豊富だったのだ。

フィサリスがギャングの部屋のドアを蒸気義肢の右腕で突き破る。
部屋の中は殺風景で鏡とテーブルとタンスと、蒸気義肢のための蒸気補給用のタンクがあるぐらいだった。
ギャングが侵入者の存在に何も動揺もせず、ゆっくりと立ち上がる。
そのギャングはマフィアの用心棒を主な稼ぎ口にしていた。
「どう、今すぐおとなしくついてくるなら、痛い思いをせずに済むわよ」
フィサリスがここに捜査に入ったのは、そのギャングの顧客リスト目当てであった。
それがあればギャングの居場所がほぼ分かったようなものだからだ。

ギャングがご自慢の腕を振るう。それをフィサリスが右腕でガードする。
だが、ギャングのほうが威力が強くて、一瞬よろけてしまうフィサリス。
そしてギャングはそのチャンスを見計らったように、腰から銃を引き抜き、それを右腕と左足に撃った。
フィサリスはそれをガードしようとしたが、それを受けた時の感触は銃弾とは異なっていた。
それはトリモチでフィサリスの右腕と左足の関節、ケーブル、フレームに滅茶苦茶に絡みついてた。
そうなってしまうと、フィサリスの右腕は使い物にならなくなってしまう。

ギャングは自分の作戦が成功したと思うとフィサリスにタックルし、フィサリスを押し倒した。
そして、そのフィサリスの右足を膝十字に固めた。
フィサリスは何とか抵抗しようとするも、左足と右腕は動かない。フィサリスの右足がギシギシと音を上げる。
南無三、そうフィサリスは心の中で思った。ふと横の鏡を見てみる。
髪型はいつしかロングに変わっていた。フィサリスに「スイッチ」が入った。
フィサリスは自分の右足の蒸気を最大限まで上げた。右足がロケットのようにすっぽ抜けていった。
用心棒の両腕が空をつかみ、そして技の形が崩れてしまった。。その隙をついて、フィサリスは右腕の蒸気も最大限に上げた。
右腕のトリモチが熱で溶けていくのを感じ、フィサリスはその男の首を左手でつかんで押し倒した後、胸をを思いっきり右腕で二回殴った。一回目で胸骨額だけ、二回目で肋骨の7本も砕けたその衝撃は心臓にも届いて
その衝撃で用心棒は気を失いそうになっていた。
用心棒が苦しそうに唸ったのを見計らって右腕でその男の首を締めあげる。
「どう!、死にたくなかったら、抵抗するのを…」
すると用心棒の両手足が不自然なまでに赤くなっているのを感じた。
嫌な予感がしたフィサリスはその場から歩いて逃げようとするも、転んでしまう。
彼女の右足は明後日の方向に行ってしまったからだ。
そのことに気づいたフィサリスは張って逃げようとするもうまくいかない。
男の両手足から蒸気がどんどんあふれ出していく。自爆しようというのだ。
「仕方がない…!」
フィサリスは己の左足を右腕で砕いた後、それを盾にした。
用心棒の両手足が爆発する。フィサリスもその衝撃で吹っ飛ぶ。

2分後フィサリスが目覚めた時には、周りは蒸気で霧のカーテンが作られており、目を凝らしてみると用心棒の蒸気義肢の手足の取り付け場所は黒焦げになっていた。男はまだ生きているだろう。だがそのことを気にしていられる場合ではなかった。
アドレナリンが蒸気義肢を外した際の痛みを沈静していたものの、フィサリスは両足を失ったことによる痛みを感じた。
見ると、右足は壁を突き破ってどっかに行き、左足はふとももより半分下がグチャグチャになっていた。
その太ももより下はフィサリスの横に転がっている。黒焦げになっているものの、盾としては役に立ったようだ。むろんもう使い物にはならないのだが。

部隊のみんなが見たら驚くだろうなとフィサリスは思った。
すると外が喧しくなる。おそらく、今の戦いの音をかぎつけて、部隊のものが来たのだろう。
この惨状では、部隊のものはみな驚愕するだろう。みんなを落ち着けるためにフィサリスはこう言おうと思った。
「ねぇ、だれかおんぶしてくれない、足がくたびれて座っていたの」っと。

―――

「へぇ~フィサリスちゃん、なかなかひどい目に合ったね」マティーがあっけらかんに答える。
「今思えば、あれは蒸気義肢の中に爆弾を仕掛けていたと思うの。ああいった職業は失敗=死だし」フィサリスはそう言った。
「一つ話したからお姉さまもなんか話してよ」フィサリスはマティーの話を内心楽しみにしていた。
「え~と…」マティーは一瞬迷った。さてどんな話をしようか迷っている、そういった状態である。
「アタシが話そうか」そっけない声が後ろから聞こえた。
「「ヴィー!?」」フィサリスと先輩が驚く。
いつの間にかヴィーが部屋に入ってきていた。
「警備のほうはもう済んだ。爆弾の存在は確認できたが取るに足らない三下だった。あとは婦警さん、アンタの部隊が何とかしてくれるだろう」ヴィーの返答には、フィサリスが元気そうなことを安心する安堵の気持ちが含まれていた。
「ヴィー、やるじゃん」マティーが答える。
「アンタも元気そうでよかったよ」ヴィーが椅子に座りながら答える。
「じゃあ、先にヴィーの話を聞こうかしら。暇だし」フィサリスが答える。
「じゃあ…アタシの場合は」





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