「フィサリスの三肢がない日常 4」

 ※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
  この作者様独自の構成の作品となります。


それは数か月前、ヴィーとファウの出会いの時のことであった。

その日は快晴だったのでヴィーはその日、一人で朝8時から蒸気ハンバーガーの食べ歩きをしていた。
朝から食べているのは、一人でぼんやりとしていたいからである。
フィサリスたちの住む町では蒸気による都市開発とそれに伴う蒸気を利用した商品の開発、生産が盛んであり、それは食事事情も例外ではなく、蒸気を利用したもの、いわゆる蒸気食がフィサリスたちの街ではファーストフードのような感じで勢いを上げつつあった。販売形式はおもに、店内で売られてイートインスペースで食べることができるものと、屋台で売られるものの二つの形式があった。
蒸気ハンバーガーはその蒸気食の一つであり、バンズで挟んだミートパティーの中に蒸気を含ませたものである。一口噛むと、パティーから肉汁と蒸気が噴出して、主に肉体労働者からの支持を集めているファーストフードであった。ほかのハンバーガーと違い、野菜が全くないのも肉の味の邪魔をしないということが、人気を博している理由の一つでもあった。

ヴィーもそんな蒸気ハンバーガーをホットドックの次に好むものの一人であった。
蒸気冷蔵庫の中に最低3つはストックするほどであった。ホットドックのほうは5つ保管するのではあるが。

一つおかしな点を挙げるとすれば、彼女の両腕が普通の蒸気義肢ではなく、戦闘義肢の状態であったことであろう。
彼女は基本的には口数が少なく擦れた素っ気ない性格で他人とは深く接しないようにしているのだが、人間だれしもずぼらな点があり、彼女の場合はときたま面倒だからという理由で戦闘義肢のまま外に出ることも多いのだ。もちろんマフィアの構成員やボスに見られないように気をつけながら。

「蒸気バーガー三つ、領収書はいらない」ヴィーが言う。
「OK! 毎度あり~!お客さん朝からよく食べるね~!!」店員がそう勢いよく答える。
この店員の態度、フィサリスを思い出すから苦手だ。ヴィーはそう思った。
店員は女性で大きめのエプロンをしていた。髪は黒でショートヘアー胸はCかD、年はヴィーより1、2歳くらい下といったところであった。看板は特にない。屋台も貧相で今にも壊れそうであった。
「そうしたいだけさ、新人さん」ヴィーが素っ気なく答える。
「どうも~!!」店員がヴィーの両腕を握ると領収書を手のひらに無理やり握らせた。
食事事業は競争が激しい、看板もないこの屋台なら一カ月もたたぬうちに潰れるだろう。ヴィーはバーガーを咥えながら屋台から離れていった。

屋台から100メートルほど離れた公演でヴィーは人の気配がない公園でバーガー三つを数分で平らげた。
今日は仕事もない、家でのんびりしていようか。あくびをしながら、そうヴィーが考えていたところ、道にクシャクシャになったビラが落ちていた。誰かが読んだ後捨てたのだろう。
「最近蒸気新聞読んでないな」とヴィーは新聞を左手で拾って読む。
一面にはこう書かれていた。

「通り魔出没!関係者の調べによると犯行現場の付近では決まって蒸気バーガーの屋台が出てきています。蒸気バーガーの屋台には気をつけ…」

そこまで読むと背中に強い衝撃が来た。ヴぃーはそのまま前のめりに倒れた。
「あれ~お客さん、今の喰らっても大丈夫なんですね~!流石~!!」店員がそういいながらエプロンを剥いだ。彼女は両足が足の付け根のところから戦闘義肢になっていた。それはフィサリスのものとは違い、まるで樽のような太さをしていた。服装は上半身は海水浴に行くかのようなビキニで下半身はに短ズボンと、機能性だけを重視したような形になっていた。
「アンタ、アタシと似てるようで正反対なんだね。足が蒸気義肢で胸でかの人」
「口は達者だね~!ウチのけり喰らってそんなことほざけるなんて」店員がそう答える。
「アンタか、通り魔さんってのは。目的は何だ?」
「そのアンタさ!」店員が蹴りをしながらそう答える。
ヴィーは両腕で蹴りをガードする。そしていったん距離を置くために肩のブーストを作動させる。
30メートルほど離れたところ、店員が勝るとも劣らないスピードで追いかけてきた。
その戦闘義肢の足の裏にはローラー、踵のあたりにはブーストがついていた。
蒸気自動車みたいに加速してるのか、効率的ではあるがある意味滑稽だな……ヴィーはそう思った
「ウチの名はファウ。アンタんとこのマフィアと敵対しているウチのとこがね、あんたを人質にとって来いってさ!そうすれば交渉なり人質なり何でもできるからね!」ファウがそういってジャンプし、飛び蹴りをヴィーのブースターに食らわようとした。
だがヴィーは己の右腕を爪から先を地面に突き刺した。そうしてファウの飛び蹴りをひらりとよけると左腕のブースターを全開にしてファウを戦闘義肢の爪で突き刺そうとした。
「チィ!!」店員が体をねじって避けようとするものの、わき腹に深く刺さり、そして地面に倒れてしまう。

「安心しなよ。殺さないから」ヴィーがそう答えると死なない程度にトドメを刺そうとした。
その瞬間、ヴィーの両手が爆発し、両腕とも手のの部分が粉々に吹き飛んでしまった。。
「さっき領収書握らせた時に、手の中に爆薬仕込んどいたのさ。助かったねぇ」ファウがそう答える。
「くッ…」ヴィーはそう唸ると己の両腕の蒸気の量を最大限以上に引き出した。
すると周りが霧に包まれて、公園のベンチも景色も空も何も見えなくなってしまった。
「煙幕かい!」蒸気はラムダにもあたり、ラムダが目を開けた時にはヴィーの姿はなかった。

「そんなことがあったのね。なんで行ってくれないの?」フィサリスがそう答える。
「別に……。迷惑かけたくないからさ」ヴィーがそう答える。
「そのファウって子、なかなか手強そうね」先輩、マティーが言う。
「一回やりあって、手の内はだいたい覚えた。今度またあいつとやりあうことがあれば負けないと思うから、一人でやるよ」ヴィーが答える。その言葉の裏にはフィサリスとマティーへの気遣いが含まれていた。
「ヴィー、あんたはもう孤独じゃないんだからちゃんと相談してよ!アンタは両腕ぶっ壊すほど無茶しすぎて迷惑かけちゃうんだから!!」フィサリスはそう答える。
「……ごめん」ヴィーがそううつむきながら答えた。
「マティー先輩も話をきくわよー!」

すると、グラークが扉をあけて出てきた。
「義肢できたわよ~。早くらっしゃい~」グラークがそう答える。
「左腕だけじゃあ無理よ」フィサリスがそう答える。
「じゃあマティー先輩が運ぼうかしら」マティーがフィサリスをおんぶする形でグラークについて外に出て行った。
それを見届けたヴィーは、彼女たちには負けてしまうな、とそう思った。







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