「フィサリスの三肢がない日常 5」

 ※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
  この作者様独自の構成の作品となります。


「じゃあ~義肢つけるわよ~」
「早くしてね。暇で仕方なかったんだから」
フィサリスはため息交じりに言った。
先ほど、ようやく義肢ができたとの報告を受けて、マティーにおんぶをされて連れてこられたのだが、
出来たのは蒸気義肢は蒸気義肢でも、戦闘用義肢であった。
「でさ、なんで戦闘用義肢が二つあるのよ?」
「日常もこっちの方がカッコイイじゃない~。いつもこれでいればいいのに~」
「日常を過ごすにはそれは重くて疲れるのよ。日常義肢は作ってないの」
「ないわよ~。たまにはいいじゃない~」
グラークがそう答え、戦闘用義肢の調整をする。と言っても、簡単なものであり
フィサリスの右腕部、両足部にある三つの接続部に対応する調整をしているのであった。
フィサリスの接続部は平らな鉄のプレートの真ん中の穴に本接続をする部分が一つ、
その周りに三つの穴、補助の接続部と他の蒸気義肢者と何ら変わりのないのである。
これは彼女がよく、蒸気義肢を取り換えることのできる最大の理由になっている。
(そして整備班の悲鳴の原因にもなっている)
接続部に入る支柱は真ん中が松茸のような形状、周りの三つが棒のような形状になっていた。
「じゃ~付けるわよ~」
そしてまずグラークがフィサリスの右足部の接続部の横にあるロックを外すと、壊れた武装義肢が瘡蓋がはがれるように
転げて落ちた。ロックは蒸気義肢の感覚を伝える役割をも務めており、ロックが外れた時フィサリスは少し喪失感を覚えた。
そしてそこにフィサリスの武装義肢の右足部を入れた後、右足部のロックを入れた。
その時、フィサリスの右足部に少しばかり針で刺したような痛みが襲った。
「くぅ・・・」
フィサリスはこの感触が少し苦手であった。自分の足がとれるという感触、
そしてその何もない部分に自分の足が『付け加えられる』という感触。
どちらともごく平凡に過ごしている人なら味わうことのない感触である。
その感触が、蒸気義肢をつけてまた1年程度ののフィサリスにとってはまだあまり慣れないものであった。
「ごめん、もうちょっと優しくしてくれるかな。ちょっと痛いから」同じようにして左足部も付けられた時、フィサリスはグラークにそう言った。
「わかったわ~」グラークが返答する。
「ごめんね」フィサリスが申し訳なさそうに答える。
そしてグラークは次に、右腕部のロックを外した。その時、ガキッと右腕部が嫌な音を立てて外れた。
外れた後の接続部を見たグラークだが、すぐさまいつもの様子でこう答えた。
「右腕部~相当無理させたみたいね~。代わりの接続部を作るのにあと三日はかかるかしら~」
「え!三日も!」フィサリスが驚く。
「右腕飛ばしたでしょ~?その時強い衝撃で接続部の中に入っていた支柱が折れてもう使えないわよ~?相当無理させたみたいね~」」
つまり、あと三日は右腕なしの状態でいろ、というのだ。その回答を聞いた時フィサリスは心底がっくりした。
接続部自体を取り換えるのには、その接続部のプレート自体を取り払い、内部を掃除、神経系を再接続、義肢をロックする強度の調節、動作の確認テストと色々手間暇がかかるのだ。
その分復帰も遅れる。
「いいじゃない~左腕あるんだし~」
「わかりましたよ我慢しますよ」フィサリスが少しぶっきらぼうに答える。
これで三日は任務はお預けになって暇になってしまった、そう思ったフィサリスであった。

そのころヴィーは警察署内にある寮棟のフィサリスの部屋でソファーに座りながら待機していた。先ほどマティーからフィサリスのことを頼まれたのだ。
目の前にはテーブルがあり、紙袋に包まれた蒸気ホットドックが三つとくしゃくしゃの紙袋が二つ置かれている。
どうやら待っている間に食べていたようだ。
「ただいま~」フィサリスがドアを開けながら答える。
「お帰り、婦警さん」ヴィーが返答する。
「三日はこのままいろって、さいあく~。先輩はどうしたの?」
「次の任務があることを思い出したから行ってくるって。爆弾解除の任務」ヴィーが素っ気なく答える。
「いいな~。暇をつぶせて。私なんか暇で死にそうだよ~」フィサリスがぼんやりと答える。
「ヴィー、膝枕して。少し横になりたいから」いいいながらフィサリスはヴィーの膝に横向きに頭を乗せる。
足もソファーに横向きに乗せる。重さでソファーが5㎝くらい凹む。
「婦警さん、風邪ひくよ」ヴィーがそう答えた時には、フィサリスのいびきが部屋の中に響いていた。
ヴィーはいびきに五月蠅く思いながらも、フィサリスがいつものように元気であることに安堵したのであった。
「たまには、一緒に寝るのもいいかも」そう言いながら、ヴィーもソファーの背もたれに背を預け、
仰向けになってスース―と寝始めた。





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