●「フィサリスの三肢がない日常 6」
※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
この作者様独自の構成の作品となります。
フィサリスとヴィーが仲良く寝ているとき、マティーは爆弾の解除に向かっていた。
同僚に爆発物の処理を任せてフィサリスの世話をしていたものの、やはり気になってしまったのだ。
この町で一番高い建造物、時計台の屋上にある爆弾の存在のことを。
爆弾を仕掛けたギャングを捕まえた後、『温和な方法』で吐かせたのだが数十個所も仕掛けており、
(場所は、公園、公民館、博物館など多種多様であった。おそらく無差別殺人が目的であろう)
その中で、一番手間暇がかかるであろう場所が30mもの高さのある時計台の屋上のものであった。
念のため、その場所を見てみようと思ったのだ。もし仮に、警察に爆弾が解除されていればそれでよし、解除されていなければ解除する。その考えでいたのである。
今、マティーの背中には、整備班が開発中の蒸気飛行タンクが装着されていた。
背中の蒸気タンクにあるアタッチメントと、飛行タンクに付いているベルトで腰に装着する仕組みのものだ。
まだ開発中ではあるが、整備班が現在グラーク以外いないのをいいことに勝手に持ち出してしまったのだ。
「最新もの、試すとしますか!」
そういって彼女が腰のベルトのスイッチを押すと背中の蒸気タンクの横から2メートルくらいの
横長の長方形の翼が生え、背中の二つの蒸気タンクから蒸気が噴出した。
そしてマティーは空へと飛び出していった。
「うひょ~い!……そんなに…早くない…」
そのスピードは時速40㎞と使った本人自身が落胆の意味で驚くほどのものであった。
飛行ユニットだから、これの倍のスピードは出ると思っていたのだ。
彼女が四肢義肢者で旧式の重量がある武装義肢をつけていることもスピードが出ない事の理由の一つであった。
だが、時計台に行くには十分なスピードであった。スピードによって彼女の巨乳も軽くではあるが揺れる。
十分をかけて時計台の屋上についたマティーは屋上に爆弾の存在を確認した。
時計台の屋上は大きさ5㎡でその真ん中に爆弾はあった。
円柱状のものが5つ束ねられており、横に蒸気タンクとつながれた赤と青のケーブルが一つずつ爆弾につながれている。
うっかり間違えたものを切ると、爆弾が蒸気と化学反応を起こして、ドカン! というものだ。
「あれが目標ね…。まだ解除されていないじゃない!」
爆弾は屋上のど真ん中に設置されていた。屋上など誰も目につかない、という理由で隠すのを省いたのであろう。
彼女は飛行タンクの翼を仕舞うと、屋上へと着地した。衝撃で足元の煉瓦が砕ける。
爆弾は、あと30分程度で爆発するものの、爆発の解除自体は難しくはないものであった。
「たしか、赤いケーブルだっけ。それ切ればいいんだっけ」
すぐさま爆弾の横のケーブルを切ろうとしたとき、マティーの左右と後ろに人の気配を感じた。
(まずは左右からってとこかしらね…)
マティーがそう思った刹那、左右から両腕が武装義肢の黒の覆面をした男性二人がマティーに殴りかかろうとした。
マティーは慌てふためくことなく、蒸気飛行タンクの翼を広げた。
勢いよく飛び出る翼に驚く男性二人、そしてその翼がみぞおちをおもいっきり打ち、二人は頭から仰向けに倒れてしまう。
どうやら気を失ったようだ。そう思う暇もなく後ろから来た人からの攻撃に対応するマティー。
男性のパターンから拳かと思い、腕を交差させてガードしようとするものの、相手の狙いは足にあった。
その人物は女性で、髪は黄色のボブヘア、胸の大きさはフィサリスと同じくらい、左腕と両足が蒸気義肢て、手にはクレイモアに酷似した剣を持っていた。その剣でマティーの両足を狙う。
ジャンプして避けようとするマティーであったが、わずかに間に合わず、生身でいうふくらはぎの真ん中から下の部分が切られてしまった。
マティーがその剣が対蒸気義肢用に作られた剣、その名も蒸気剣のようだ。
鉄などの固い物体に触れると、内部の蒸気圧が変動し、刃が高速で振動し鉄をもたやすく切り裂く対武装義肢用の武器だ。
(蒸気剣相手だからとはいえ、やっぱし旧式の武装義肢、それほど防御性能は高くないか…!)
片足だけでは着地できず仰向けに転ぶマティー、女性のほうは、何も言わず、彼女を一刀両断しようと彼女の体の真ん中を引き裂こうと剣を振り下ろした。
ガキィ!そう響いたと思うと、刀はマティーの両手の平の中に納まっていた。
「真剣白羽取りってね……!」
流石の蒸気剣も両横から掴まれては切るものも切れない。女性は一瞬面食らう。
そういったかと思うと、マディーは右腕で剣をつかんで粉々にする(同時に彼女の右手のひらの装甲はボロボロになってしまった)と、左腕で、女性のみぞおちを思いっきり殴った。
女性はその衝撃に耐えられず、屋上から空中に飛び落ち、地面に向かって落下していった。
そのことを気にする暇もなく彼女は爆誕のそばに這いずって近寄り、赤いケーブルを刀の破片で切る。
爆発は止まるはずであった…が爆弾から蒸気が引き出していく。爆弾自体も赤く光っていた。
「まさか、あいつ嘘言ったの!?」
驚くマティー。もはや解除は不可能だ。先ほどの二人の男性も気を取り戻した後、状況を察して屋上から近くの建物へと飛び降り逃げて行った。
すぐさま飛行タンクを作動させ、この場から避難しようとするも…
先ほどのようなスピードが出ない。やはり開発中なのでタンクの蒸気の量も足りないようだ。
「やっぱスピードが足りないか!しかたない!」
そういって、彼女は左腕で己の右腕をチョップで切り捨てる。肩の付け根から右腕部分が荒い切断面を残してなくなる。
そして左腕の蒸気タンクの蒸気を最大限に挙げると左腕が上腕骨部分から下が飛び出て宙に舞っていった。
すると、飛行タンクのスピードが先ほどの1.5倍に増していった。
そうして彼女が時計台の屋上から避難したと同時に、屋上が爆発に包まれた。
1時間後、彼女が目を覚ますと、同僚たちが目の前にいた。そして、彼女は柔らかい毛布とシーツに包まれていた。
どうやらあの後、無事着地出来たはいいものの、10m先の家具専門店に着陸して店の中は滅茶苦茶になってしまったのだ。
同僚たちは爆発を聞いて駆けつけてきたようだ。
「ごめん!整備班のみんなには勝手に開発中の奴持ち出したこと内緒にして!」
そういって謝るマティーであった。同僚たちは、やっぱりか という表情をしていた。
同時刻、時計台近くのマンホール、そこがギィッと開くと先ほどのボブヘアーの女性がマティーたちの様子を見ていた。
自分と行動を共にした男性二人は、警察に蒸気拘束服で身柄を拘束されていた。
おそらく、あの後警察と鉢合わせしてしまい、そのまま捕まってしまったのだろう。
そして高所から飛び降りたので蒸気義肢も故障し、力が4分の一も出せなかったのだろう、と
彼女、ヒルテはもう数分観察したのち、マティーたちが自分に気が付いていないことを悟るとそのままマンホールの下に身を隠した。
「先輩~。流石に整備班泣くよ」翌日の朝午前7時、寮棟のマティーの部屋で四肢の義肢を無くしたマティーにフィサリスが呆れて言う。
「いいじゃないの。いいデータ取れたでしょ!」マティーはそう笑って言い張る。
「ヴィーは?あの子にも聞かせてあげたいな~」マティーが聞く。
「どうやら先に起きて自分とこのマフィアのとこに戻ったみたい、ヴィーも私と同じく呆れるだけよ」フィサリスがそう答える。
どうやらフィサリスが同僚たちに聞いたところによると、逆のケーブルを切るように嘘をついたものは
時計台のものだけであった。その用意周到さからして蒸気義肢者を狙った物であろう。
マティーは自分の迂闊さを恥じつつも(彼女に責任はないのだが)、同僚に被害が出ていないことを安心した。