「フィサリスの三肢がない日常 7」

 ※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
  この作者様独自の構成の作品となります。



「婦警さん~、どこだい」ヴィーが言う。
任務のない日だったので、フィサリスが心配になってみてきたヴィー。
だが、警察量の彼女の部屋にはフィサリスの姿はなかった。
「まさか…」ヴィーがある一つの結論に考え付く。そしてトイレも兼ねている風呂場に向かった。

「…警さん、婦警さん。起きなよ、風邪ひくよ」誰かの声が聞こえる。
「ふぅ…」フィサリスが目を覚ますと、そこは蒸気風呂の中であった。
「やっと起きたか、婦警さんってずぼらだね」ヴィーが微笑みながら答える。
「!?!」フィサリスが驚く。なぜなら今のフィサリスは水着姿だったからである。
両足の武装用義肢も3㎝程離れた場所に水に浮かんでおり、今のフィサリスは3肢欠損状態である。
蒸気義肢は基本強い耐水性能を持っているため、その気であれば服や靴下などと同じように水洗いも可能である。
基本面倒見はいいものの、オフの時には案外ずぼらな面が表れてしまうフィサリスである。
おそらく、昨日マティーの見舞いから帰ったあと、入浴ついでに、両足の武装用義肢を洗っていなかったので面倒だったので、付けたままだと水洗いもできると思い、そのまま入ってしまったのであろう。
蒸気風呂桶の隣には、両足の日曜義肢もある。おそらく右手がないのは、接続部の修理の後付けた状態で洗うのであろう。
「しかし婦警さん、武装義肢のまま風呂に入るなんて、だらしない」ヴィーが微笑みながらそう答える。
「キィー!」フィサリスが顔を赤らませて悔しがる。
いつも蒸気ジャンクフードについて不健康だと口を酸っぱく言われているヴィーは、
今回フィサリスの生活態度について指摘することができて、少し嬉しく思った。

「さて、仕事に行けないから、握り飯でも作るか!!」服を着替えたフィサリスが勢いよく答える。
「でさ、なんで私もいるのさ?婦警さん」ヴィーが言う。
「私右腕ないのよ?そんなんでおにぎり作れるわけないじゃない」
フィサリスはせっかく入った休日だからと、おにぎりのを作ろうと思った。
いわゆる気晴らし というものである。
そして隣にはそれに巻き込まれたヴィーもいた
フィサリスのペースについつい巻き込まれてしまうのも、ヴィーの生来の人の好さを表していた。
今彼女たち二人の格好は割烹着(かっぽうぎ)に三角巾を頭に付けた格好になっていた。
フィサリスは髪を二つに分けていた。髪が長いので髪の毛が料理に入ってしまうためである。

「おにぎりなんてさ、握ればいいんじゃないの?婦警さん」
「そんな簡単なもん造るわけないでしょ。蒸気おにぎりを作るの」
「ああ、蒸気ホットドッグのような、中に蒸気を入れた蒸気食品のことかい」 ヴィーはそう思っていた。
「まずはさっき蒸気レンジで温めたごはんがあるからそれ出して」
言われるままに、ヴィーがレンジを開けると、半径5センチぐらいのお椀の中にお米が入っていた。
「まずは握って」フィサリスがそういうと、ヴィーは言われるままに握っていく。
ゴムの手袋で覆われたヴィーの義手によって、米が丸められ、そして三角に整っていく。
10分後には、おにぎりは10個できた。それらは綺麗に三角の形に整っていた。
「意外ね~。ヴィー、ジャンクフードばっか食べてるから料理苦手かと思ってた」
「和食、父さんと母さんが得意だったんだ。婦警さんみたいに日本通だったから」
意外ね~。とフィサリスが答える。
おそらく、ヴィーがジャンクフードについつい頼ってしまうのも、親を思い出すからであろう。
「私のお母さんも和食好きだったんだ。八墨のじっさまに影響受けてね。私は昔はあまり、米があまり好きじゃなかったから、あまり食べなかったんだけどね」フィサリスが自分の義理の母親、アリーシャのことを思い出しながら言う。
アリーシャはフィサリスの義理の母親である。八墨から習った空手を駆使して武装蒸気義肢相手にも引けを取らない戦果を挙げていた。
今は亡くなっているものの、その柔和で母性的な性格と悪徳に対し立ち向かう姿はフィサリスに引き継がれている。
フィサリスが左手で、蒸気窯に蒸気ホースを伸ばしていく。接続した後は、おにぎりにホースを入れていく。
おにぎりの中に蒸気が入っていく。
そして、10個すべてに蒸気を入れ終わると、フィサリスはふぅっと息を吐いた。
「よし、出来上がり!これを八墨のじっさまのとこに持っていくか!」フィサリスがおにぎりをかごに詰めながら言う。
「今は稽古か建築業の時間じゃないの?」ヴィーがそう答える。だが、八墨=黒木=ロジャーが差し入れを断らない性格だということはヴィーも知っていた。
「良いんじゃないの?それに、ついでに稽古も受けに行くつもりだから」
最近さぼっていたしね~。とフィサリスが答える。
「流石、バトルジャンキー」ヴィーがあきれながら言う。
「二番弟子は伊達じゃないってことよ!ヴィー、カギ閉めお願いね!道場に鍵とどけて来てね~」とフィサリスが答えながらかごを左腕で抱えて外に出て行った。
ヴィーは笑いながら、部屋の鍵閉めの準備に当たった。

1時間も歩くと、フィサリスは八墨の道場についた。
「八墨のじっさまー! おにぎりよー!」フィサリスが戸を開けると同時に大きく言う。
「へいへい」八墨が目をこすりながら言う。
「まだ寝てたの?もう午前の10時30分よ?」フィサリスがあきれながら言う。
「今日は道場は12時からじゃ。十分じゃないかい?」八墨が答える。
「おにぎり上げるから門下生と稽古させて。大丈夫、怪我はさせないから」フィサリスが笑顔で答える。
運動したくてたまらなかったのであろう。
「右手がないが大丈夫か?」八墨が言うが、その顔はフィサリスより門下生を心配していた。
「いいでしょ~させてよ~」フィサリスが上着を脱ぎ棄てて、水着姿になる。空手着に着替えるためである。
水着姿なのは、おそらく普通の下着に着替えるのが面倒だったからであろう。
「わかった。ちょっと若いもんも緊張感が抜けている感じだから、ここらで上がいるということを教えておくのもいいか」八墨が空手着を渡しながら答える。
八墨の二番弟子、フィサリス(一番目はアリーシャ、3番目は八墨の息子)。
本来ならば二番弟子のフィサリスが道場を継ぐはずであったのだが、
1年前、フィサリスが3肢を欠損したので、フィサリスが自分から辞退したのだ。
蒸気義肢では空手に必要な気を出すことができなくなったからである。
だが時たま、このようにフィサリスが門下生に稽古をつけることもあるのである。
「よっし!」空手着に着替えたフィサリス、その顔は運動できることに感動している顔であった。
そして1時間30分後、門下生は上には上がいることを、文字通り体で覚えることになる。




<戻る>