●「フィサリスの三肢がない日常 8」
※本編の「蒸気装甲戦線」とはまた一味違った
この作者様独自の構成の作品となります。
フィサリスが八墨の道場についた頃…
時計の針が11時を指しているころでは整備班の部屋ではマティーと彼女の同僚兼ね友人のミスミがいた。
「マティー先輩!心配したんですから~!」マティーと親しいミスミが答える。
「いやいや~ごめん!整備班ご自慢の新型壊しちゃって!後でご飯おごるからさ」マティーが四肢がない状態でおどけながら答える。
「いいですよ。先輩のものを大切にしなさっぷりはうちの部署では評判ですから」ミスミがあきれながら答える。
「整備班は全員病欠じゃなかったっけ?噂は大げさに伝わるものだってよく言うけど」マティーが疑問を口にする。
「私のは軽いものだったので、薬を飲んだらすぐに治ったんです。グラークさんフィサリスさんの武装義肢作るのにかかりっきりなのですぐ直します。それから先輩の手足の義肢を新しいのに取り替えます。少し揺れますからじっとしていてくださいね」ミスミが言う。
ミスミの姿は左手と両足は、左手は肘のほうから手の部分、足のほうは正確には膝から下の部分が蒸気義肢であった。
そして、その蒸気義肢は、フィサリスやヴィーが付けている武装義肢とは5倍以上の大きさを持つ武装義肢のようなものに覆われていた。
「蒸気鎧、調子いいわね~。でも装甲面で不安有って感じかな?」マティーが明るく言う。
蒸気鎧とは、蒸気機関によって駆動し強力な蒸気兵器を搭載した人が一般的に扱う「戦闘型蒸気歩行兵器」の別称である。
大きさは平均的に3から4メートルほど。その姿かたちは例えるならば鎧で覆ったロボットといった具合である。
その大きさゆえに、武装義肢よりも大容量の蒸気タンクを搭載でき、強力な蒸気武装をも扱うことができ、そして非四肢欠損者でなくても扱うことが比較的容易であるため、民間の間でも広く出回っている兵器である。
今、ミスミが載っているものは、手足の部分が装甲に覆われておらず、蒸気筋肉とフレームがむき出しの状態である。大きさは3メートル丁度である。天井とは10㎝ぐらいしか離れていない。
ミスミの頭は顔だけが蒸気鎧の首のあたりからひょっこりと出ている。少し息苦しそうな感じで。
彼女のショートボブでストレートパーマの藍色の髪がちょこんと見えるのをマティーは少しかわいらしいと思った。
そして、ミスミは人体でいう、胸の中の部分に納まっており、そこから自分の両手足を人体で例えると、
手は肩甲骨のあたり、足は恥骨と大腿骨のつなぎ目あたりに置いている。
そしてそこから蒸気義肢の蒸気筋肉から、蒸気鎧のケーブルをつなげ、連結させるもできる
そうすると、まるで自分の手足のように蒸気鎧を動かせるのである。蒸気鎧の操作方法の二つのうちの一つである。
もちろん、この操作方法では、もし蒸気鎧にダメージが入った場合、身体のほうにも直接ダメージが入ってしまう。
もう一つのほうは、ハンドルをつかんで指を稼働させる、ハンドルを引いて関節を曲げると言った感じのものである。今右手でやっているものがそれだ。
だが、この操作方法は、先の操作方法に比べて動きが0.75倍ほどに鈍くなってしまうのが欠点である。
「先輩の四肢がぶっ壊れたって聞きましたから、心配してすぐに来たんですよ!少しは無茶を控えてください!」ミスミが言う。
そして、ふっと安心したように息を吹いた。やはりマティーの明るさに安心したのだろう。
ミスミは生まれつき右腕以外の筋肉が弱く、昔から蒸気義肢に頼っている。
特に足のほうが弱く、蒸気義肢装着時も、杖を使った歩行か蒸気車いすや蒸気車などの乗り物を使った移動方法を強いられている。
部署のほうも、整備班のほうに属している。昔から蒸気義肢に頼っているため蒸気義肢に詳しいのだ。
蒸気鎧を扱うのが得意なのも、その知識から得たものである。彼女の蒸気鎧の操作テクニックは警察署内では5本の指に入るレベルである。
時たまそのテクニックを使って、フィサリスヴィー、マティーと一緒に蒸気鎧に乗って任務に参加することもあるのだ。
危険物、例えば蒸気爆弾の解除や蒸気武装の分解、蒸気タンクの蒸気の補給などが主ではあるが、肉弾戦や蒸気武装を使うこともままある。
「今使っているものは製作途中のものです。フィサリスさんの武装義肢作るのに時間がかかっていまして」
「どんなタイプ?まさか私がぶっ壊した新型と同じような蒸気で空飛ぶやつ?」マティーが質問する。
「ええ、そうです。これさえあれば、分厚い装甲と重量かつ、素早い動き!まるで砲弾そのものですよ!」
ミスミが顔を輝かせて答える。彼女は蒸気義肢オタクなのだ。
「蒸気筋肉と連結させていますから、そうしたいと思うだけでブースターがすぐに起動するんです!
その気になれば銃型の蒸気武装と連結させて、フレームが持つ限りマシンガンのように撃つことも
理論上できるんですよ!研究が進めば、海だろうが山だろうがひとっ飛びできるはずです!
それを可能にさせる理論派というと、まず、蒸気義肢の内部にある神経接続回路と………」
(心配していたのは私のほうじゃなく新型のほうだったのでは…)マティーが不安げに思った。
ミスミはスイッチが入ってしまうと、蒸気義肢のことについて一晩中語ることもできてしまうレベルのオタクなのだった。
「…であれをつなげると、先輩聞いてますでしょうか?」ミスミが言う。
「えっ、ええもち。聞いてるよ」マティーが慌てて言う。
「聞いてなかったでしょ。でも、先輩が生きててよかったです」ミスミが涙で目を潤わせて言う。
やはりミスミも蒸気義肢仲間である。仲間のことはちゃんと心配しているのだ。
「いやいや、気にしなくていいよ。いつものことだもん」マティーも安心している。
「フィサリスのとこ行きたいからさ、あいつのことだから休みの時は道場にいるだろうし。先に義肢つけてくれないかな」
「フィサリスさんにも新型試してみませんかって聞いてみてください!もちろん壊さないようにと付け加えて!楽しみにしています!」ミスミが笑顔でそう答えた。
時計の針は12時を指していた。